東大院生ショータのなるほどアウトプット~バイオ研究者への道~

生物学系研究者を目指す大学院生のブログ。学びや気付きのアウトプットをしていきます。

生物物理若手の会夏の学校2020

 

 

8月参加イベント第2弾!ということで「生物物理若手の会夏の学校2020」の感想などまとめたいと思います。

 

bpwakate.net

 

このイベントは2020年8月24日〜26日の3日間に渡って生物物理若手の会主宰で開催され、例のウイルスの影響でオンライン開催となりました。僕がスタッフとして参加している生化若手の会の夏の学校が同週末ということもありリアル開催で両方に参加するのは難しいので、せっかくのオンライン開催を生かそうと両夏学にはしご参加しました(汗)

生物物理についてはきちんと学んだことがないのですが、自分の研究でメカノバイオロジーを考慮しないといけない問題があり、見聞を広げる必要を感じていたところです。

理論屋さんが見ている景色

印象的だったのは実験系の僕が普段関わることのない理論ガチ勢の方々の思考をちょっとのぞけたことですね。生物を完全に物理や数学の問題として捉えている。同じ生命現象を見ていても全く違う景色を見ている方々がいることを実感しました。

理論の本筋の話は全然ついていけませんでしたがう〜ん、最低限理解できる教養が欲しい...

  

 

以下特に印象に残ったお話を参考文献つきで紹介します。

細胞は力を感じることができ、アクチン細胞骨格はメカノセンサーとしてはたらく(曽我部先生)

細胞は培養する基質の硬さに応じて増えやすかったり増えにくかったりすることが知られています。つまり周囲の環境にかかる物理的な力の大きさを感じ取ることができるのです(細胞力覚)。この細胞力覚はメカノセンサーと呼ばれる分子のはたらきで成り立っていますが、その中でも重要なのがアクチン細胞骨格です。細胞は周囲の基質の硬さを調べるために基質を引っ張り、アクチン繊維にかかる張力の大きを感知して基質の硬さに応答しているのではないかという話。アクチンの果たす役割の幅広さに驚きました。

<参考文献>

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/55/4/55_187/_pdf 

遺伝子ネットワークの状態を決定する遺伝子をネットワーク構造のみから理論的に予測できる(望月先生)

生物の遺伝子は非常に複雑な制御ネットワーク関係を構築しており、その振る舞いを解明することは重要です。発生過程の遺伝子ネットワークを理論的に解析した結果、その振る舞いを決定する少数の遺伝子が導き出されました。これら少数の遺伝子のみの活性を実験的に操作すると、全ての細胞種に分化させることができました。複雑な遺伝子ネットワークでも、純粋なネットワーク構造のみから数学的に全体の振る舞いを決定する要素を予測でき、逆にそれだけで振る舞いを決定できない場合は遺伝子ネットワークが不完全であることを予測できるとのこと。実験結果をモデル化しただけの理論ではなく実験に強く提言できる数学的根拠がある理論であるところがポイントです。

<参考文献>

https://www.jstage.jst.go.jp/article/isciesci/61/7/61_283/_pdf/-char/ja

 

ナノダイヤモンドの量子的性質を応用し細胞内微小環境の温度やpHなどを測定する技術(五十嵐先生)

結晶中の格子に微細な欠陥があると蛍光を発する性質があるそうです。このような微細な格子欠陥をもつナノサイズのダイヤモンドを生細胞に導入することで、その蛍光から得られる情報を介して細胞内の微小な領域の温度やpHなど様々な情報を測定できる技術が開発されています。このような分野は量子生命科学と呼ばれ、今年(2020年)に第2回の学会が開催されるほど新しい分野だそうです。この分野がどのように生命科学に貢献していくのか非常にワクワクします。新技術には常にアンテナを立てておきたいですね!

<参考文献>

ナノサイズのpHセンサーを実現 -生命の謎にダイヤモンドで迫る- — 京都大学

 

 

「実験と理論の最先端と協奏」をテーマに興味深い講演を多数聞くことができました。自分があまり勉強したことのない分野だったので新鮮さが大きかったです。数理に軸足を置く人たちが生命現象をどう見ているかを肌で感じることができ貴重な機会となりまました。運営、スタッフのみなさん、先生方ありがとうございました!